Doctor's Column ドクターズコラム

ISSUE 33災害は人に何をもたらすのか

  • 公開日:2016年7月1日

 4月に起こった熊本市を中心とした大地震は、誰もが予想できなかった。天災による地変や自然界の持つ力を知ることは、不可能に近いのではないかと考えたくなる。
 私がもっとも気になるのは、被害に遭った人々が受ける“ストレス”の怖さだ。ストレスとはよく聞く言葉だが、誰もがその本当の意味を知っているのだろうか。
 一般に、ストレスとは心身の均衡を脅かすものと定義されている。人間には、ストレスに適応できる限界があるはずだ。もちろん個人差はある。環境も大いに関係するだろう。
 精神や肉体の緊張は、ストレスが心身への攻撃を始めた瞬間から始まり、それが続くと不安障害やうつ病などの精神疾患、さらには高血圧や心疾患、癌にもなるといわれている。
 脳は、神経細胞の活動バランスが崩れると、どんなものでもストレスと認識してしまう。脳が受けたストレスが感情や思考や身体に影響し、重篤な病を発症させることもあるのだ。
 最近、私は、以前読んだことがある、精神科医の著書の一説を思い出している。それは、こんな話である。
 日頃からとても闊達で社交的なご婦人が、自宅をリフォームすることになった。リフォーム業者にキッチンを乗っ取られたまま1年半もの長い月日が経過した頃、このご婦人は工事の騒音よりも、その合間の静けさに怯えるようになったというのだ。音がしないということは、工事が中断されていて、理由は何であれ工事期間がさらに延長することを意味する。いつになったら元の平穏な生活が取り戻せるのか? 先の見通しが立たないという恐怖が大きなストレスとなったのだ。それが原因で、気持ちを落ち着かせるためにワインを飲み始めた。その結果、アルコール依存症になっていく。ドクターの診断では、脳の委縮が始まっていたそうだ。そして、ドクターが最初にすすめたのは、彼女の好きな縄跳び、つまり運動である。これが功を奏していったのだ。
 被災地での被害者の心理は、まさにこのご婦人と同じではないだろうか。震災などが起きるたびに、テレビのニュースなどでは「このままでは、先の見通しが立たない」「いつまでがまんすればいいのか誰も言ってくれない」などの不安なコメントが繰り返される。その状況が続けば、確実に病人は増えるだろう。災害が起きた場合はまず、安全な場所へ移動し、一日も早く基本的な人間らしい生活ができる環境を整えることが大切だと思う。
 考えてみてほしい。いつ終わるか予測できない過大なストレスが、人間に与える深刻さを。その対策を、脳科学的な発想で検討することはできないのかとつくづく思う。そのためには、国や県などの行政は、もっと真剣に運動療法を用いた対策に取り組んでほしい。この対策は被災者のためだけではない。被災地で再建のために活動するすべての人々の健康、そしてさらには、地球上に生きるすべての人々の寿命を延ばすには、まず“動くこと”。身体を動かすことの重要性をぜひとも知ってほしい。

戸澤 明子

株式会社プロティア・ジャパン 取締役会長/学校法人 日本医科大学 元評議委員/医師

いち早くアレルギー治療に関心を持ち、アレルギー外来を設置。多くのアレルギー疾患の臨床経験を持つ。現在は株式会社プロティア・ジャパンの代表として、医師の経験を活かし、 正しいスキンケアの普及活動に全力で取り組んでいる。
著書に 「50歳から輝く人、30歳で老ける人」(幻冬舎)がある。

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